クリスマスの日薄汚れた格好のおじさんに「お嬢ちゃんは欲しいもの、ないかい?」と尋ねられ、「ある」と即答すると木箱をくれた→箱を開けると中から壺が出て来て…

1: 以下、名無しにかわりまして裏島哲郎がお送りします:2004/04/04(日) 04:44:44.44 id:Ur4Ma6T


荒川さんは幼少期、他の子と同じ様にサンタクロースを信じていた。
ただそれも小学校にあがると、いささか懐疑的になっていった。
「両親がね、厳しかったから」
両親とも県の役所に勤めるガチガチの公務員だった。
なのでシルバニアファミリーをお願いすれば百科事典に、ゲーム機をお願いすれば電子辞書になったという。
サンタなんていないんじゃないか、うすうす理解しつつもまだ信じたくはない年頃だった。
その年のクリスマスも枕元には動物図鑑が置いてあり、がっくり肩を落として荒川さんは学校に向かった。

「他の子はゲーム貰ったとか、大きくて可愛いお人形貰ったとか、そんなのばっかり……。惨めだったわ。他の子に『サンタさんに何貰ったの?』なんて聞かれたくなくて、その日は一日空気のように過ごさなくちゃいけなかったの」
帰り道も同級生を避けるように、いつもは通らない道を選んだ。
住宅地を抜けて人が少ない公園を抜ける時に、荒川さんを呼び止める声があった。
振り返ると、おじさんがいた。

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両親とも違う、親戚のおじさんとも違う、薄汚れた格好だったという。
浮浪者とも違う、例えるなら<用務員さんをくたくたに煮込んだ感じ>だったという。

「お嬢ちゃん、お嬢ちゃんは欲しいもの、ないかい?」
ある、荒川さんは即答した。
おじさんは「そうだろう、そうだろう」と頷いた。
背広姿じゃない大人の人は荒川さんの周りにはいなかった。
だからかもしれない。
(あぁ、この人が本当のサンタさんなんだ!)
幼い荒川さんはそう考えたという。
本で読んだようなお髭はなかったけれど、大きな瞳は湖のように澄んでいた。
大きな手で荒川さんの頭を撫でた。

「お嬢ちゃんにはこれをあげよう。きっと、気にいるものが入っているよ」
おじさんはクリスマスカラーの包装紙に包まれた、バスケットボールくらいの大きさの箱を渡してくれた。
ありがとう、と声を張りあげて幼い荒川さんはお礼を言った。
感触から木製の箱だとわかったという。
メリィークリスマス! そう言うおじさんに満面の笑みで手を振った。

(なんだろう、なんだろう)
自然にスキップをしそうな足取りになった。
(お人形さんかな。ゲームかもしれない)
自宅につくやいなやプレゼント箱をあけると、中には箱にぴったり収まるサイズの壷が入っていた。
(さぁ! なーんだ!)
蓋を軽く開け、目を瞑って荒川さんは手を突っ込んだ。
ざらついた感触だった。
手をひきぬいて目を開けると白い砂のようなものが袖や腕にまとわりついていたという。
(底の方に入ってるのかな?)
今度は肘まで深く突っ込んだ。しかし砂のようなものしか感触は得られない。
何度も何度も手を入れた。その度に白い砂は飛び散った。
その時「ただいま」と半休をとった母親が帰ってきた。
荒川さんのお母さんは壷を見て、図工で使う何かだと思ったのだろう「なぁに、それ?」と笑っていた。
しかし 荒川さんが説明しようとする数瞬で笑顔は消えた。

「あんた、これどこで拾ってきたん!」
今までに聞いたことのない怒鳴り方だった。
いつもの、厳しいけど優しいお母さんの顔はどこにもなかった。
「え、え……」
荒川さんのお母さんは狂ったように娘の袖を、腕を払った。
母親の異様な取り乱し方に荒川さんは怯え、何も喋れなかった。
「あんたこれ骨よ! これ骨壷よ!」
人を焼いた後の骨よ、そう叫ぶお母さんを、荒川さんは放心して見つめた。
すでに部屋のあちこちに白い砂はちらばっていた。

だからクリスマスは嫌い、そう荒川さんが言うのも納得できる。
「この時期になるといまだ夢に見ちゃうのよ。グチャグチャになったおじさんが右腕にすがりついてくる夢を」

 

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嫌な思い出だなぁ…

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